第3章

莉央視点

混沌から離れるように、一歩、そして二歩と足を踏み出す。

もう堪えきれない涙で、視界が滲む。一歩進むごとに胸の内側が引き裂かれるような感覚がする。でも、これでいい。こうするしかないのだ。

不意に手首を掴まれた。指が、必死の力で肌に食い込んでくる。

全身がびくりと跳ねる。とっさに振り払おうとしたけれど、その手はさらに強く、ほとんど痛いくらいに握りしめられた。でも、痛くはない。温かい。

まだ涙を流したまま、ゆっくりと振り返る。そして、凍りついた。

お母さんだった。でも、三十秒前の、虚ろな目をした壊れた女性じゃない。前の人生で、私を見るたびに震えていたお母さんでもない。

その青緑色の瞳は燃えていた。まるで誰かがその奥で火を灯したかのように、実際に燃え盛っている。頬には涙が伝っているのに、その眼差しは鋭く、一点を見つめ、生気に満ちていた。

その瞳には、今まで見たことのない何かが燃えていた。安堵。苦痛。そして、私の心臓を跳ねさせる、もう一つの何か。

決意だ。

「行かないで」。声が、ひび割れている。「お願いだから、行かないで」

何? 違う。全部、間違ってる。前の人生では、彼女は決して……私と目を合わせることさえできずに、崩れ落ちてしまっていたのに。私に手を伸ばすことも、抱きしめることも、行かないでと懇願することも、一度もなかった。

「お母さん……?」

かろうじて、囁き声になった。

お母さんは突然、皆の方を向いた。報道陣、彼女の家族、まだ機材を片付けている警視庁の捜査官たち。私の手首を握る力は、決して緩まない。

そして彼女は声を張り上げた。その声は刃のように、あらゆる雑音を切り裂いた。

「この子は私の娘です!」

その言葉は爆弾のように群衆を撃った。全てのカメラが一斉にこちらを向き、全ての会話がぴたりと止まった。

「この子は私の娘です。家に連れて帰らなければなりません!」

カメラのフラッシュが狂ったように焚かれる。カシャカシャカシャカシャ、まるで機関銃のような光の連射だ。明滅する光に目を細めるが、皆の顔に浮かんだ衝撃の色は見て取れた。

山崎叔父さんは顔面蒼白になっている。空気を求める金魚のように、口をパクパクさせていた。直人は雷に打たれたような顔をしている。その表情は二秒の間に五回は変わっただろう。

報道陣が一斉に質問を浴びせかけ始めるが、お母さんの声はその全てを凌駕した。

「この子は、私が〝あの場所〟で産んだ娘です。私と同じ、被害者なのです」

言葉を重ねるごとに、彼女の声は激しさを増していく。

「二度と誰にも、この子を傷つけさせはしません」

一人の記者がマイクをこちらに突き出す。

「この少女は……」

「私の子です。私の血を分けた子。それに文句がある人間は、地獄にでも落ちればいい」

なんてことだ。お母さんが、テレビの生中継で記者に地獄に落ちろと言った。

山崎叔父さんが一歩前に出る。その顔は、必死に抑えつけられたパニックの仮面を被っていた。

「薔子、今は感情的になっている。家でゆっくり話した方が……」

「いいえ」。お母さんの声が、剣のように彼の言葉を断ち切る。「私は、この十五年間で一番頭がはっきりしています。この子は私の娘。私と一緒に家に帰ります。それだけのことです」

頭が追いつかない。前の人生では、私の名前を口にするだけでパニック発作を起こしていたのに。今、全世界の前で私を自分の子だと主張している? 私のために、戦ってくれている?

その屋敷までの道中は、あっという間に過ぎ去った。私は滑らかな黒塗りの車の後部座席で、息もできないほど強くお母さんに抱きしめられていた。

向かいの席にはロバートと直人が座っている。二人とも、まるでトラックにでも轢かれたような顔をしていた。

「母さん」山崎直人が慎重に切り出す。「本当に、大丈夫なんですか……」

「直人」。お母さんの声は穏やかだが、断固としていた。「この子は、あなたの妹よ。受け入れてくれると嬉しいわ」

山崎直人は口を固く結んだ。彼は、まるで解けないパズルのように私をじっと見つめている。

私はお母さんが私を離し、震え始め、私が彼女にとって歩く悪夢であるはずだということを思い出すのを待ち続けた。でも彼女は、ただ私を強く抱きしめ、耳元で優しく安心させるように囁くだけだった。

「大丈夫よ、いい子だから。もうママがいるからね。もう誰もあなたを傷つけたりしないわ」

前の人生では、この車での移動は静かな地獄だった。私がまるでそこにいないかのように、彼らが私の「状況」について話し合う間、私はできるだけ皆から離れて座っていた。ロバートは私が「一時的な」存在だと繰り返し言っていた。直人は、私を見ようともしなかった。

でも今は、お母さんは私を、まるで失いかけた大切な宝物のように扱ってくれている。

その屋敷に着いても、お母さんはまだ私の手を離さなかった。まるで私を世界に披露するかのように、正面玄関を通り抜けていく。

使用人たちがじっと見つめている。大理石の玄関ホールを歩いていると、彼らの好奇の目が私たちを追ってくるのを感じた。

山崎叔父さんが咳払いをする。

「薔子、住む場所について話すべきだろう……」

「何の場所ですって?」お母さんは私の手を握ったまま、彼の方を向いた。「莉央はここに住むのよ。私たちと。この家族の一員として」

「だが、君の回復が……」

「私の回復には、この子が必要なの」。お母さんの声に、再び鋼のような鋭さが宿る。「これまでの人生で、これほど確信を持ったことはありません」

その声に込められた信念に、胸が締め付けられる。本気だ。彼女は、本気でそう言っている。

「この家で、誰かがこの子を部外者のように扱うのは聞きたくないわ」とお母さんは続ける。「この子は私の娘。ここにいるべき子なの。家族として、一緒に食事をし、一緒に暮らすのよ」

何か言いたかった。そんなことしなくていい、前みたいに隠れていられるから、と。でも私が口を開くと、彼女はそれを遮った。

「いいえ、愛しい子。もう隠れなくていいの。ここが、あなたの家よ」

夕食の時間になると、私は本物の陶磁器と銀のカトラリーが並んだ、長いオーク材の食卓についていた。前の人生では、このテーブルは掃除するとき以外、見たこともなかった。私は皆が食べ終わった後、キッチンで残り物をつついていたのだから。

今、私はお母さんのすぐ隣に座り、直人と山崎叔父さんの向かいにいる。

ずらりと並んだフォークとナイフを見つめながら、手が震える。お皿の横には四種類もの食器が置かれているけれど、どれが何に使うものなのか、さっぱりわからない。

使用人たちが次から次へとコース料理を運んでくる。ロブスターの尾。完璧にカットされたステーキ。見たこともない野菜。全てが雑誌から抜け出してきたかのようだ。

これが正しいフォークだろうと期待して手に取るが、手がひどく震えて、ほとんど持てない。皆の注目が、さらに状況を悪化させる。

直人が、ほとんど隠そうともしない苛立ちの表情で私を見ている。

「何で飯をただ見つめてるんだ?」

その時、全てが私を襲った。この豪華なテーブル、美しい食事、私の肩に置かれたお母さんの庇うような手。多すぎる。あまりにも、多すぎる。

止めようとする前に、涙がこぼれ落ちる。真っ白なお皿の上に涙が落ち、必死に袖で拭おうとする。

「ごめんなさい……ごめんなさい……私、こんな……」

だが、嗚咽はますます激しくなる。体中が震えている。

直人の顔が嫌悪に歪む。

「泣いてるのか? この家で一番いい食事を出してやってるのに、泣くのか? 一体どうなってんだ、こいつは」

その言葉で、私の中の何かが壊れた。全ての恐怖、長年の苦痛、全てが溢れ出してくる。

「文句なんて言ってない!」言葉が喉から引き裂かれるように飛び出した。「ただ……追い出されるのが怖くて……こんな綺麗なものを台無しにしちゃうのが怖くて……怖いんです……」

嗚咽がひどくて、最後まで言えなかった。

「山崎直人!」

お母さんの声が部屋中に爆発した。彼女がテーブルを叩きつけた衝撃で、銀食器が跳ね上がる。

「この子は、生まれてから一度もまともな食事をしたことがないのよ! この食器が何に使うものかも知らない! こんな食卓についたこともないの!」

直人は身をすくめるが、お母さんはまだ終わらない。

「この子は十五年間、地獄で生きてきたの。十五年間もよ!」お母さんの声は感情でひび割れている。「汚い小川で捕まえた魚以外に見たことがないから、魚用のフォークの使い方も知らないのよ!」

「薔子、どうか落ち着いて……」山崎叔父さんが割って入ろうとする。

「この子は私の娘なの。この子に必要なのは、理解と愛情であって、裁きじゃない!」

お母さんは一瞬で私の隣に来て、その手を優しく私の肩に置いた。

「大丈夫よ、莉央。時間はいくらでもあるわ。ママが教えてあげるから、ね?」

涙越しに、直人の表情が変わるのが見えた。苛立ちは消え、羞恥心のようなものに変わっていく。

「俺……あー……悪かった」と彼は呟いた。

お母さんは私の隣に座り、一番シンプルなフォークを手に取った。

「まずはこれから始めましょう」と彼女は優しく言った。「メインディッシュ用よ。ほら?」

彼女は私の手を導き、正しい持ち方を教えてくれる。その手触りは温かく、忍耐強かった。

二つの人生で初めて、私は心を込めて作られ、愛を込めて出された食事を味わった。

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